Open Sesame!

日々の観劇の感想や感じたこと

2/25、2/26「猿狸合戦」東京芸術劇場シアターイースト

 

私は、豊臣贔屓で石田三成が好きだ。
歴史、特に日本史には全くと言っていいほど興味のなかった私が
戦国無双に手を出し、司馬遼太郎の小説を読むほどまでになったのは

全て、る・の祭典が始まりでした。

織田信長徳川家康、そして豊臣秀吉
あまりにも有名すぎるこの三人が何を行った人で、どういう人柄だったかなんて興味もなくまともに勉強さえしてこなかった。
せいぜい学生の頃テストのためにその場しのぎに覚えた程度。
かろうじて今でも覚えていたのは本能寺の変くらいで、それもどういうワケがあったかなんてどうでもいいことだった。
そんな私はこの作品を観たことで、つじもっちゃんの演じる殿が好きになった。豊臣秀吉が好きになった。

好きになったから勉強した。秀吉が辿った、信長の死後から天下統一そして晩年へという流れを知っている。
だからこそ、今回の続編である猿狸合戦はとても怖かった。
脚本を担当されたのが納祭の赤澤ムックさんというのもまた、怖かった理由のひとつ。
良い作品になるに違いないという期待と共に、あの容赦のなさ、身構えます。

秀吉がどんな人物として描かれるのか。
辻本秀吉はとても穏やかで優しくて、ついていきたくなる、殿!と呼びたくなる人。
そんな人物が、どう変わっていくのか。

【あらすじ】
時は戦国。本能寺の変から約2年。清州会議を経た、賤ヶ岳の戦いから更に後。
信長の後を継いで、この戦乱の世で「天下人」となるのは一体だれか…。
誰よりも心優しく、貧しいものが殺されていく世の中を嘆き、自分がこの世界を、殺されていく人たちを守りたいと心に誓った、あの羽柴秀吉は…変わっていた。
天下が近くなればなるほど、秀吉は強かに、そして少しずつ冷酷に。 しかしそんな秀吉に、人々は従い始める。
同じころ。天下統一を目指す戦に名乗りを上げた男が。
彼の名前は徳川家康。人を動かす能力に秀吉以上に長けた男。 じりじりと頭脳戦を繰り広げる、秀吉と家康の猿と狸の化かし合い合戦の決着とは…?
更に、大阪城築城へと動き出した秀吉の想いとは…。 その後の秀吉の物語。
公式サイトより


信長の死後、本来であれば織田を継ぐのは信忠の息子・三法師だが彼はまだ幼い。
信長を討った光秀に”敵討ち”をした秀吉が、幼子の代わりを務めたところで文句を言う者はいない。言えるはずがない。
今秀吉に逆らうこと、それは織田家への謀反と変わりない。

そんな現状に不満を持つ者がいて当然。

あちこちに愛想をばら撒く人たらしの猿・豊臣秀吉
不満を持つ者の一人で策略家の狸・徳川家康

天下人の座を奪い合い争う二人の、猿と狸の化かし合い。

もう公演から時間も経っているので、結論から。

幼馴染である前田利家が心配そうに見つめるように秀吉は、確かに以前と比べ狡猾に冷酷になっているように見えた。
対立しいがみ合う徳川家康との争い。
家康が上手か、いや待てよ秀吉の方が上なのか。それを繰り返し、戦い、そして家康の上洛を巡っての駆け引き。
千利休が言ったように、天下が近付けば人は変わってしまうのか。

しかし、辻本秀吉は、あの時のまま変わってなんていなかった。

家康上洛の前の晩、秀吉は家康の元へ共もつけずに現れた。
挑発する秀吉を、家康は服部半蔵の目の前で切り付けた。
倒れる秀吉、嘆く半蔵。
これで徳川家は終わりだ──

と、思ったら笑いだす家康と秀吉。
切りつけられ息を引き取ったはずの秀吉まで笑い転げているとは。

なんとここまで、いや明日からも、全ては秀吉と家康による大芝居だった。

家康は自身の息子が切腹を命じられると、秀吉に助命嘆願をしていた。
「どうか命だけは」その言葉に秀吉はただ「はい」と答えている。
まさかそんな返事がくるとは思ってもいなかったのだろう家康がもう一度同じ言葉を口にすれば、秀吉は再び「はい」と答える。
驚いた表情の家康。

秀吉は、もう二度と竹中半兵衛の息子・重太郎の時のようなことがあってはならないと考えていた。

だから、家康の息子の命を助けこっそりと逃がしてやることにしたのだ。
秀吉の言葉を聞いた瞬間に、この話がる典の続編である意味、る典の秀吉である意味を理解した。頭の中で、秀吉と半兵衛の首実検の場面がフラッシュバックした。
ここにいる秀吉は、私が好きになった秀吉だと。辻本秀吉は何も変わっていないのだ。あの時のまま、心優しい殿がいる。

今でも息子は元気にしている。そのことに恩を感じている家康は、秀吉を天下人にするために自ら対立する役を買って出たのだった。
敵が多い秀吉にとって、影響力の強い家康が影で味方になってくれることほど心強いことはない。
家康が秀吉を天下人と認めることで、敵となりうる武将たちも納得するだろう。

全ては明日の為。
明日の家康の上洛の日、その日その時こそが天下を掛けた大芝居の見せ場。

まさに”猿と狸"の化かし合い!

 

もう、すっかり化かされた!
ムックさんがネタバレ禁止でとツイッターでおっしゃっていたので何かあるんだろうとは思っていたけど、まったく予想がつかず。
ムックさんは言葉遊びが上手な人で、納祭のリーディングの「綿麻呂の独白(毒吐く)」の時におお!と思っていたけど。やはり今回も。
騙された~!と思いつつ、この感じはとても気持ち良い。

それにプラスして、最低限のセットに小気味良い音楽、キラキラの照明(笑)
あと、るひまらしいなと思ったのが衣装とメイク。
小さな劇場でそれも歴史ものなのにスタイリッシュ寄りのアイラインの入れ方だったり、秀吉は金髪で家康の髪にはメッシュが入ってたりするのがとても好き。
る・フェアのヘアメイクなんか特に好きだな。

 

徳川家康◆鳥越裕貴
→私は徳川家康が好きではない。
だから、鳥越君が家康と聞いた時にはどうなることかと思ったけど凄く良かった。
家康らしい狡賢さの中にある鳥越君らしい弄られキャラっぽさやコミカルな雰囲気が、絶妙なバランスで愛されキャラな家康を作り出していた。
加藤啓さんとの絡みはとっっっっても大変だったと思う(笑)
腹太鼓のくだりは、特に千秋楽は笑いが止まらなくて大変だったw
半蔵に顎を掴まれて「わしの顎がもっと割れたらどうするんじゃ!!!」と叫んだ瞬間もう笑いが止まらずw
相変わらずの顎いじりですが、鳥ちゃんの切り替えしが面白いので”この人これしかないね”にはならない。頑張って元の流れに戻そうとしたり、必死にツッコミをいれるがために言い間違いをして半蔵や数正にツッコムはずが「わしは!」と言ってしまい「今自分にツッコんだのかわしは!?」とテンパったり。本当に貴重なキャラだ。
アフタートークでは、る典で演じた清正のことを「清康」と言ってしまったり、一日三公演で脳内も混乱していた模様。

石川数正二瓶拓也
→へいにーはさすがの安定感。
着物を着ての所作も綺麗。個人的に今作の登場人物の中で数正が一番好き。
人柄もよく、忠誠心があり本当に心から殿を慕っている人。
数正が家康の元を離れる時や、秀吉の元にいる数正と家康が再び出会った時のくだり。
とてもグッときた。
一日に三回公演はへいにーにとっても初めて。もう一公演できそうという発言をするもつじもっちゃんと、るひまさんは本当にやりかねないという話になり「もう限界です」とのこと。笑

前田利家◆蒼木陣
→今回初めて知った子で、彼自身も初めてのる・ひまわりさん
さっそく加藤啓さんにまとわりつかれて洗礼を受けていてかわいかったですw
つじもっちゃんにも「今回この制作会社は初めて?どう?」「バタバタしてますね」「大丈夫、このバタバタにも慣れるからw」とやりとりをしているのが微笑ましかった。
前田利家といえば秀吉の親友で、下剋上の時代らしくない真っ直ぐな人柄のイメージ。
蒼木くんはそれにぴったり合った、若さと溌剌とした雰囲気で利家を演じてくれた。
素直なお芝居がとてもよかった。今後の年末のお芝居にも出演しそうな若手の子。

織田信雄◆碕理人
→同時に柴田勝家も演じられていました。
どうしてもそちらは兼崎勝家のイメージが強すぎて違和感が拭えず。理人君が悪いわけではなく。
ただ、信雄に関してはもう理人くんしか演じることのできないところまでの仕上がりっぷりだった。
”バカ王子”って感じの役で、下手すれば痛々しくなるかイライラさせてしまいそうなキャラを、笑えるところまで持ってきてくれる。
お馬鹿な子に徹することに変な照れがない。細くて長い脚に白タイツがまた絶妙にシュールでした。

なか、朝日姫、ねね、服部半蔵加藤啓
→啓さんはもう本当に本当に面白い。
る典のオンジが大好きで今回も楽しみにしてました。
秀吉を支える三人の女性を演じる時の若手への絡みっぷりはもうさすがですね。ねねの時の「ねねだよ」っていうちょっと一昔前のグラドルっぽい芝居が最高でw
そして服部半蔵の時の口で伝える忍者の動きとか「殿、こちらへ」って言う時の手の動きとか、とにかく笑いが止まらずww
半蔵にしろ朝日姫や秀吉の母にしろ、鳥越くんへの絡みが一番えげつなく。
啓さんのボケ続きに鳥越君も「先に進ませてくれ!!」と絶叫。
しかし、最後の挨拶では控えめな啓さんでした(笑)

羽柴秀吉◆辻本祐樹
→私が好きになった秀吉がそこにいました。
優しい声に柔らかい表情。それにくわえて、少し冷めたような表情も見せるようになった秀吉。
る典の時とは同じ人だけれど間違いなく時を重ねた、そんな辻本秀吉。
ここまでたどり着くのにたくさんの出来事があった。重太郎の死に未だ心を痛めることのできる秀吉には辛いだろう。
利家に対し「おまえはそんな風に笑うな」と言う姿は、自分は下剋上の時代に染まり変わってしまったがそれでいい、だが利家にはそうなって欲しくないという心の表れだったと思う。変わりゆく自分に、秀吉自身もまた心を痛めているがそれを隠している。
優しい辻本秀吉だからこそ。こうしてこの人は天下を取りに行くんだな。ついていきたい!
つじもっちゃんが座長として気を遣っているのは蒼木くんへの声のかけ方でもわかるし、人柄が見えてきて頼もしい。
お客さんが楽しんでいるかもちゃんと気に掛けてくれている。そして、続編への期待を隠さない姿も好き(笑)
ぜひ!猿狸は続編が観たいし、つじもっちゃん座長の年末の期待もし続ける。

石田三成◆安西慎太郎
→安西三成は、どうした?笑
ずんどこみっちゃんよりもひどくなっていたけれど、インフルエンザということなので仕方ないのでしょう。顔色の悪い安西君が着ると寝間着もまるで死装束。
しかし、やはり私の好きになった石田三成がそこにいた。殿をただ真っ直ぐに慕う姿。
幕が開いて最初の登場人物紹介のところではゲストが秀吉の名を呼ぶので、それだけで込み上げてくるものが有った。
清正や正則の話になると二人のことを認めていることを吐露し、けれどそれを指摘されると自画自賛を始め照れ隠しのような態度。不器用な三成らしい。
秀吉がどう変わろうと、天下や世がどう動こうと、三成はただ殿の後をついていく殿の天下を信じるという意思しかないのだな。
島左近にくわえ、新之丞のエピソードから禄高の話まで出て石田三成好きとしては最高の数分間。
新之丞に禄全てをやって家臣にしていた三成。「あの時の私はもう居候みたいなもんでしたからね!?自分のやった禄でww養われてww」
最後は「ジャスティス!!」と叫んで去っていった三成。やはり、安西三成は情緒不安定である。
最後のアフタートーク時につじもっちゃんにジャスティスのことを聞かれて「(理人くんのが)ウケてたからやった、そうじゃなかったらやらなかった」などと発言w
トーク終わりですよの合図が鳴るとおそらくわかっているくせに「なんの音ですか?」と聞き「終わりの合図だよ」と言われると「やだやだやだ!」と拒否ww
「お前三回公演やってねぇだろ!お前が言うな!笑」と返され笑っていました。

竹中半兵衛木ノ本嶺浩
→半兵衛殿、期待を裏切らぬ気持ち悪い登場の仕方。
「化けて出ました」まるで台詞の後にハートマークが付きそう。
「成仏してくれ!」と言った秀吉wに対し幽霊ライフを満喫しているらしい半兵衛殿。
ふざけたようなしりとり、最後に”ん”をつけてしまった秀吉に「ンジャメナ」と返す。変わってないな…。笑
しかし、秀吉が吐露した天下を取ることへの重圧や不安の欠片をしっかりと拾って導いてくれる。
天下人が背負う重責をそれはそれと理解しながら、秀吉が悪いわけではないのだと。
その姿を見ていると、殿のため殿の今後の為、それゆえに官兵衛のため、重太郎を犠牲にしたあの半兵衛殿なのだと改めて思う。
そして、半兵衛がこうして秀吉を信じ続け導いてくれるのも、殿への信頼あってこそ。それは、秀吉の人柄あってこそ。リーディングの二人のストーリーを思い出した…。
みねくんゲストで、まさかこんな話になるとは思わず、不意打ちに泣きそうになりました。
秀吉の天下はたくさんの人の意志、夢、命を礎にして成り立っているものなんですね。
しかし、去った後にひょっこりとカーテンから顔をのぞかせているのを見ていると半兵衛殿はやはり半兵衛殿だなと。笑

 

笑いとジンとくる感覚、まさにるひまさん年末の作品の続編なんだなと実感しました。
この後の秀吉がどうなっていくのかもぜひ見たい。「今のところはな」期待してます!

そして欲を言えば、安西三成での関ヶ原もお願いしますその時は清正は鳥越君でお願いします…