Open Sesame!

日々の観劇の感想や感じたこと

2014/12/20・12/23『bare』中野ザ・ポケット


全寮制のセント・セシリア高校。校長でもある神父の言葉が響くミサでは、卒業を間近に控えた生徒たちが祈りを捧げている。平凡な生徒ピーターにはある秘密があった。
それは、学校一の人気者であるジェイソンという同性の恋人がいること。
いつかは自らを―bare―さらけ出し愛し合いたいと強く願っていた。
学内の演劇公演のためのオーディションがシスター・シャンテルによって開催された。
美しいアイヴィ、ジェイソンの双子で皮肉屋のナディア、
主役を狙うマットも参加し、配役が決定する。リハーサルが開始されると、ピーターの気持ちはより強いものとなっていく。
ドラッグと酒でトリップするパーティーの中、気持ちが募る
ピーターはジェイソンとキスを交わすが、それをマットに目撃されてしまう。
社会、親、友人の目を怖れるジェイソンは自身のイメージを
守るため、ピーターを突き離しアイヴィと一線を越えてしまうのだった。
―bare―になることを求めた彼らの心が絡み合い、
そしてついに、一つの終焉を迎える…

公式サイトより



この作品は『RENT』を彷彿とさせるけれど、込められているメッセージは全然違う。
一度目観たとき、死がすごく冷ややかに感じたけど、二度目観たときは違った。
RENTの方が死を、ずっと恐ろしく強大に描かれているのだとわかった。
『bare』な彼らにとって『死』はあまりにも身近な逃げ道だった。

浅はかで、愚かで、愛を求めていた子どもたちの物語。

23日は、20日に会場で追加購入したチケットでした。初めてリピーターチケットというものを買いました。
追加席なのか一番前のパイプ椅子の席でした…!
まさか、2014年最後の観劇が最前列だとは!でも、事前に買った人は一列目だと思ってたら二列目になってたのショックだっただろうな…。

より近くで、演者の表情を見ながらの贅沢な観劇。
わかることがたくさんあった。「そうだったんだ」「これはこういう意味だったんだ」ばかりの。

『RENT』は、ボヘミアンな自由な生き方を求める。あるものは夢を追い、あるものは同性愛者、あるものはドラッグ、あるものはエイズ
自ら手を伸ばし、選択した生き方の先にあったマイノリティ。死を目前に、今日一日を最後の日のように生きている。

『bare』は、親、宗教、学校、教師、神父。いろんなものに縛られている。彼らは、まだ高校生だから。
浅はかで、愚かで、周りが見えていない。自分で選択したことの責任が取れない。だから大人は彼らを縛る。それは間違いではないけれど、そのぶん子どもたちは反発する。
同性愛は罪。本当のことなんて言えやしない。さらけ出すことの代償を、自分で償うことなんてできやしないのだから。


二度目に観劇して気付いたのは、『bare』は『ロミオとジュリエット』だったということ。
劇中劇がロミジュリなことに、最初はなんの疑問も抱かなかった。アイヴィの歌を聴いても、劇中の歌を聴いてもなお。
ロミジュリ好きだから嬉しいなくらいの感覚でいた。それが、なぜロミジュリだったのか理解したとき、私は肌寒くなり鳥肌が立った。

自分をよく見せよう、親の期待に答えよう。そうして、気を張り続けていたジェイソンはすべてを台無しにした代償を「命」で償うしかできなかった。
それはきっと逃げでもあり、それしかないと素直に思ったから。その行動の浅はかさ。
もっと道があったはず、どうにかできたかもしれない、命までは落とすことなどなかったかもしれない。そう思うのは、私が大人だからでしょうか?
幼さゆえの愚かさ。この作品を観て感じること、それは、「ロミオとジュリエット」と同じだった。

そう思ったとき、いろいろなことを理解、というよりは納得した。
私には、ジェイソンやアイヴィの選択は理解できないし、ピーターの重すぎる愛も可愛いとは思うけれど、ジェイソンを理解していればもっと手立てはあった。
わからない、理解できない。当然だった。彼らはまだまだ子どもで、世界が狭く短絡的。そしてなにより、愛されたがりで。
大人の私がもう持っていない小さな世界を、彼らは持っている、そこに生きている。

理解できなくていいのだ。
理解できないまま、気付けばこの作品を愛していた。



*それぞれの役者の印象

ジェイソン役
@鯨井くん
→生で見たのは初めてでした。
人気者のジェイソン。鯨井くんはどちらかというと好青年のイメージだったり、もっと言えば海堂のイメージが強すぎて最初は受け入れるのに苦労した。
鯨井くんのジェイソンは「カリスマ」というよりも優しく、親しみ易く人が寄ってくるという感じ。ルーカスの態度からも、それが垣間見えた。
ときどき、ポロポロとこぼれてくる繊細さが日本人なのかもしれないと感じた。
アイヴィを愛せればいいと、一度は思ったように見えた。愛せないと知っていて、楽な道を選ぼうとしてしまった。
縋ってくるアイヴィを突き放せない優しさが、鯨井ジェイソンにはあった。

@辛源さん
→初めまして。RENTでデビューしたというのは知っていました。
さすが歌がうまく、鯨井くんよりも聞き取りやすい。外人さんなだけあってまさにインターナショナルな学校の「カリスマ」っぽさを理解している感じ。
鯨井くんのジェイソンに比べて、カースト上位感が強い。キャッチーなキャラクターになっていたと思う。

感情の表現が、やはり外人さん風味。誰にも本音を見せない強さと弱さ。
完璧であろうとするからこそ、アイヴィの気持ちを断りきれない。ノーマルのストレート、そう偽っているから。

鯨井ジェイソンも、辛源ジェイソンも本当違うね。
前者の方がよりピーターに心を開いていたように感じるし、後者はピーターにさえ見せていなかった。
それはどちらも、間違っていなかったと思うしお互い演じているジェイソンに説得力があった。
アイヴィが惹かれるのもわかる。垣間見える弱さに、また、見せないミステリアスさに。わかってあげたい理解してあげたい、そう思わせるには十分だった。

完璧に見えて、実はただ取り繕っているだけのジェイソン。
タイプ的にはRENTのロジャーに近い。
何もかもが剥がれ落ちて、ボロボロになった彼はようやくピーターに愛していると言えたのに。どうしてだろう。
ドラッグの摂取。自殺?摂取しすぎ?なぜ?
家の体裁を気にする厳しい父親、同性愛を語れない神父。誰か、彼を救えなかったのだろうか。

そう、なぜ?と思った。
今ならわかる。なぜ「愛してた」と言ったのか。
すべてを失い、崩れ落ち、そうして出てきたのは愛の言葉じゃない「俺と一緒に逃げないか」だった。まだ誤魔化してる。
薬を大量摂取し、死ぬとわかってようやく「愛してた」愛の言葉が出てきたんだ。
それだけジェイソンにとってピーターは重く、大切で、裸の感情で愛した人だったんだね。

死してようやく、みんなの前でピーターを抱きしめることができたなんてさ。

なんでこんなにも不器用で、哀しくて、大きい愛なんだろうね。


ピーター@田村さん
→元マリウス俳優ということ以外何もしれなかったけど…かわいい!!
とにかく、可愛い。
「それって黙らそうとしてる?」
「そうだよ」
「ずるい!!」
この、ずるい!!でめっちゃハート飛ばして抱きついてるのかわいすぎた。
ジェイソンがロミオの台詞喋ってる時のときめいてる動きとか、こっちがメロメロになってしまう。
大麻やって、ふらふらしながらジェイソンに甘えるシーンは可愛いけど切なくて。
ジェイソンの服の袖をつかんだり手をつなごうとしたりして甘えるのに
「そういう態度やめろよ」
「そういう態度って?恋人みたいな!?」
「声落とせよ!」
見ていてしんどいです。
彼には、母親(といっても私はあまり信頼していないけど)と優しいシスターがついていたから。

ジェイソンが主役らしいけど、私は完全にピーターが主役と思っていた。
それはやっぱり、私が彼に共感と同情をしていたからか。
重い恋。子どものそれなんだ。焦りと、短絡さ。もっと彼にもできることがあったかもしれない。
でも、今はただ、ピーターには幸せになってもらいたいと思う。
許すことを知っている彼なら、ジェイソンのことも、自分のことも許して前に進めるから。


アイヴィ役
→アイヴィのことはよくわからない。私と、とても遠い人物だと思う。
そう考えた一度目。
二度観て、ようやくアイヴィが見えてきた。

@平田さん
→声が、菊地美香ちゃんに似てる。彼女の表現もやっぱり日本人的。すごく繊細そう。ビッチという言葉に乗っかってあげて空気読んでる感じ。弱いから。
とても歌が上手いのだけど、歌い方がこのミュージカルにあまり合ってないかも…別ので見たい。本当に上手だから。
繊細なアイヴィが優しいジェイソンに、母性さえ向けるような恋。

@宮澤エマさん
→ソウルフルな歌声。透明感がある声質だけど、声量があってさすがハーフで「オーマイガッ!」な歌い方。ジェニファーさんタイプだ。
もっとストレートにぶつけてくる。強がりで、弱いというよりも頭が良いから空気読んじゃう感じ。はいはい、ビッチ役してあげるわよみたいな。
その奥にある、か弱い少女の恋心が火付いちゃった感じ。

「大人」では、どちらも力強い歌声。平田さんは爆発してる。エマさんは静かに徐々にこぼれ落ちてくる。
それぞれのアイヴィらしくていいなあって思う。

思うのは、感情の表現が繊細な平田さんと鯨井くんはやっぱり感情の振れ幅が大きく感じる。我慢して我慢してドカーン!ってなる。
ストレートな辛源さんとエマさんは逆にそういうシーンの方が繊細。
アイヴィなら「私は大人」の時、ジェイソンなら神父様のところへ行った時。
前者二人は怒りを爆発させるのに対し、後者二人は今までの強がりの反動のように弱さが見える。

ちょっとした発見です。Wキャストおもしろすぎます。


ナディア@三森さん
→彼女は、見ていて辛かった。私に似ているかもしれない。というか、コンプレックスある人ってこうなりがち?
自分を卑下する彼女は、見ていてイライラするの。どうしてそういうことばっかり言うのって。自虐するのって。
でも、やっちゃうよね自分も。つまりは同族嫌悪。こっちがbareにされる。

素晴らしい声量と歌声。強がっているし、嫌味言うくせに、本当は優しい。
その優しさをずっと、自虐の奥、コンプレックスの奥に隠してる。
アイヴィの妊娠によって、ジェイソンの死によって、それがbareされていく。
ジェイソンの秘密を知っていた彼女の「どうすればよかったんだろうね」が胸に突き刺さる。
どうか、アイヴィを支えてあげて欲しい。


マット役
@染谷さん
→少しばかり気が弱そうで、1番になれないことを気にしているけど、なにより欲しかったのは「アイヴィ」
そんな感じがしたから、彼を責めないであげて欲しいと思う。

@神田さん
→逆に、神田さんのマットはなんでも1番になりたがり。成績も、役も、アイヴィも全部欲しい。そんなだからアイヴィに愛されないのよ><
どちらも、不器用さん。神田さんの役作りの方がわたし的に、わかりやすかった。よくいる、ちょっとやなやつ(笑)可愛らしいなって思えて、結構好き。

マットとピーターのデュエットや、最後のマットが謝るところ。
好きなんだよね。


クレア@伽藍琳さん
→私には理解しがたい母親というか、理想の母親像ではない、という感じかな。
けれど、仕方ないこと。彼女が悪かったわけじゃない。キリスト教徒で、同性愛は罪としてきた人が、自分の息子がゲイという現実をそうやすやす受け入れられるわけがない。
それでも彼女は母親で、ピーターの幸せを願い、抱きしめたいという想いだけは変わらないのだから。
それにしても、この人歌が上手い。嫌だなと思わなかったのは、演技力のせいだろうか。


ルーカス&ターニャ
→良いカップル!
ルーカスの態度でジェイソンの性格がわかるのも良い。ドラッグやるし、もうダメダメじゃね?って思うけど、可愛げがあるし友人は大切にする。
しかも、彼女も大切にできるし結構いい男だよねルーカス。彼女といちゃついてる男に怒ってたのかっこよかった。
ターニャも、彼氏思いでルーカスを可愛いと思ってそうなところが良い。しっかりものって感じだし、うまくいきそう。


シスター・シャンテル@妃香里さん
→黒人には見えない(笑)顔立ちとスタイルがせめて白人かな。
10年ぶりくらいに見たけど、変わっていなくて、面白い感じとか歌い方踊り方手の振り…あー私、この人のファンなんだなって思いました(笑)

シャンテルは、自身が抱える黒人差別の問題から、ゲイという秘密を抱えるピーターを理解しようとしてくれた人。励ましてくれた人。それだけで嬉しい。
アランに対し「シェイクスピアの時代は全員男が演じたのよ。どうかその無知を知られないように、口を閉じて、一生息を止めておくことをオススメするわ」に痺れた。


神父@阿部さん
→歌上手い…ジャベールと聞いて納得。
「答えは明らか 求めらるは清らか」のところがゾクゾクする。厳格。シャンテルは許しの神。神父は罰を与える神。まさにジャンバルジャンとジャベールの違いのよう。
神父様というのは難しいです。


大人たち、みんな理解がなかったわけじゃない。それぞれが、差別、宗教、倫理観、いろんな中で迷い彷徨っている。誰も彼もが、bareできずにいる。
そんな寂しさ、愚かさ、哀しさ、いろんなものが詰め込まれた舞台でした。


『RENT』より青い。と表していた方がいらっしゃって、まさしくその通りだなと。
その青さに、すっかり魅了されてしまいました。